はじめに

春のお花や贈り物として人気の高いユリ。とてもきれいなお花ですが、猫にとっては命に関わるほど危険な植物だということをご存じでしょうか。
猫はLilium属(リリウム属)やHemerocallis属(ヘメロカリス属)に含まれる植物で中毒を起こすことがわかっています。見た目はユリにそっくりなのに「ユリ」や「リリー」という名前が付いていないヘメロカリス属の花もあるので注意が必要です。
逆に「ピースリリー」のように名前に「リリー」と付いていても、別の種類でユリほどの強い毒性はない場合もあります。ですが、胃腸に刺激を与えて嘔吐を起こしたり、心臓に悪影響を及ぼす種類があるなど、安全とは言い切れません。
さらに、日本ではユリを交配させた「ハイブリッド種」が多く出回っており、どの種類がどれほど危険かを見分けるのがとても難しいのが現状です。
2024年の調査でも英国の猫の飼い主さんのうち「ユリが猫に有毒である」と知っていた人は50%未満だったと報告されています。つまり、多くの方がユリの危険性を十分に知らないまま、猫のそばに飾ってしまっている可能性があるのです。
猫でユリ中毒を起こす植物一覧
| 属 | 和名(例) | 学名 | 英名・園芸名 | 特徴・備考 |
|---|---|---|---|---|
| Lilium属(ユリ) | テッポウユリ | Lilium longiflorum | Easter lily | 花瓶水も有毒、全パーツ毒性あり |
| タイガーリリー | L. lancifolium (= L. tigrinum) | Tiger lily | 少量でも腎不全を起こす | |
| スターチャイザー(スタ―ゲイザー) | Lilium ‘Stargazer’ | Stargazer lily | オリエンタルハイブリッド | |
| アジアティック系ユリ | Lilium (Asiatic hybrids) | Asiatic lilies | 園芸種に多い | |
| ヤマユリなどその他のユリ類 | L. auratum ほか | – | 多数のハイブリッド含む | |
| Hemerocallis属(デイリリー/カンゾウ類) | ノカンゾウ | Hemerocallis fulva | Daylily | 嘔吐~急性腎不全報告あり |
| ヤブカンゾウ(重弁含む) | H. fulva | Daylily cultivar | 猫での腎毒性確認 | |
| ニッコウキスゲなど | H. dumortieri, H. graminea, H. seiboldii | – | Hemerocallis spp.として危険 |
日本でよく見られる代表的なユリ
別の毒性を持つ “ユリ (リリー) ”
| 和名 | 学名 | 毒性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| スズラン(Lily of the valley) | Convallaria majalis | 強心配糖体による心毒性 | 腎不全は起こさない |
| ピースリリー | Spathiphyllum spp. | シュウ酸カルシウム結晶で口腔刺激 | 観葉植物に多い |
| カラー(カラーリリー) | Zantedeschia spp. | シュウ酸カルシウム結晶 | 嘔吐やよだれなど |
| アルストロメリア(ペルーのユリ) | Alstroemeria spp. | 主に消化器症状 | 腎毒性なし |
ユリに含まれる危険な成分とは?

ユリによる中毒の正確な毒素はまだはっきりとは解明されていませんが、水に溶けやすい性質のある毒素と考えられています。
猫がユリを摂取すると、腎臓の中の特に近位尿細管の細胞に強いダメージが起こります。細胞が壊れてしまうと、その壊れた細胞の断片が尿細管に詰まり、結果として急性腎障害(急性腎不全)を引き起こします。
腎臓がうまく働かなくなると尿が作れなくなり、乏尿(尿が少なくなる状態)から無尿(尿が全く出ない状態)に進行します。尿が出ないと、体内に老廃物や毒素がどんどん溜まり、命に関わる症状へと悪化してしまいます。
検査で見られる異常
- 血液検査
- 尿素窒素(BUN)
- クレアチニン
- リン
- カリウム
これらの数値が上昇します。
- 尿検査
- 等張尿
- 尿糖、尿タンパク
- 尿円柱の検出
さらに、腎障害と同時に膵炎を併発するケースも報告されています。
猫にとって危険な摂取量とは?
ユリ中毒は猫にのみ見られる中毒で、犬やウサギなどでは有毒性は確認されていません。
しかし、猫にとっては非常に危険で、花びら・葉・花粉など、あらゆる部分が有毒とされています。
猫が花びらや葉をかじったり、ごく一部を口にしただけでも腎障害を引き起こす可能性があります。さらに、ユリの毒素は水溶性であるため、花瓶の水をなめてしまった場合でも中毒症状が現れることがあります。
また、花粉が体についた状態で毛づくろいをしてしまい、花粉を舐め取ることで中毒を発症するケースも報告されています。このようにほんの少しの接触でも命に関わる可能性があります。
猫に現れる中毒症状とは?

ユリ中毒では、腎臓の尿細管が直接的にダメージを受け、早期から腎障害が始まります。初期には尿の量が増える(多尿)ことで脱水が進み、さらに腎障害が悪化していきます。
初期にみられる症状
もっとも多く認められるのは以下の症状です。
- 嘔吐
- 食欲不振
- 元気消失
- よだれ(唾液分泌)
これらは多くの場合、ユリを摂取してから1〜3時間以内に出始めます。
ただし、一時的に症状が出てもすぐ落ち着くことがあり、その場合に「回復した」と勘違いしてしまうと治療が遅れてしまう危険があります。さらに、重度の腎障害を起こしていても無症状で元気に見える猫も少なくありません。
摂取後の経過
- 摂取から12〜30時間:多尿が続き、脱水が進みやすい
- 摂取から24〜48時間:腎障害が進行し乏尿、やがて無尿に
- 摂取から3〜7日:代謝産物や毒素が体内に溜まり、嘔吐の悪化や神経症状が現れ、死亡に至ることもある
検査でわかること
- 血液検査では、BUN・クレアチニン・リン・カリウムの上昇が見られますが、これは摂取後18〜24時間経過しないと異常が出にくいとされています。
- 尿検査では摂取後12時間ほどで先述した異常が現れることがあり、血液検査よりも早い段階で変化を確認できる場合があります。
特に多尿期の尿検査で尿円柱を確認することは、ユリ中毒の早期診断に役立つとされています。
ユリを食べてしまった時の初期対応と注意点

催吐処置(吐かせる処置)
一般的に、猫が何かを誤食してしまった場合は、2〜3時間以内であれば催吐処置(薬を使って吐かせる処置)によって体外に出すことが検討されます。
ユリの場合は特に危険性が高いため、食べてから8〜12時間以内であれば、吐かせる処置が検討されることもあります。ユリは花や葉っぱをほんの少しかじっただけでも重い腎障害を起こす可能性があるため、たとえ吐かせてユリの一部が出てきても、内視鏡や胃洗浄で残りを取り除く処置を行うことがあります。
また、毒素を吸着させる目的で活性炭が使用されることも多いです。
静脈点滴治療
ユリ中毒の治療では、吐かせる処置や胃洗浄による毒素の除去と並んで、静脈点滴による治療がとても重要です。特に、無尿になる前に点滴を開始することが命を守るうえでとても大切です。
点滴治療と尿量の確認
治療中は、点滴を行いながら尿の量をしっかり測ることが大切です。中毒の初期には尿が多く出る(多尿)ため、脱水していることが少なくありません。そのため、尿道カテーテルを使って1〜3時間ごとに尿量を測定し、乏尿や無尿になっていないかを確認します。
ユリ中毒については、学術的な調査が行われています。
2024年に発表された研究では、ユリを誤食した猫112頭を対象に、入院治療と通院治療の結果が比較され、次のように報告されています。
「入院治療を受けた96頭の猫では死亡例はなく、100%の生存率を示しました。一方、通院治療を選択した16頭の猫では約86.5%の生存率でした。」
(Lam et al., Journal of Feline Medicine and Surgery, 2024)
だからこそ、入院して点滴や尿量の管理をしっかり行うことがとても重要です。
点滴のリスクと注意点
尿量が低下しているにもかかわらず、漫然と点滴を続けてしまうと、肺水腫や胸水、全身のむくみなどを引き起こし、かえって重症化する危険があります。
そのため、尿量が少ない場合には注意が必要です。特に、乏尿(0.5ml/kg/時間以下)となっているときは、利尿薬の使用が検討されます。ただし、脱水している状態で利尿薬を使うことは逆効果になるため、尿量が低下している場合は注意が必要です。
乏尿・無尿に対する処置
ユリを口にした猫が無尿になる、あるいはほとんど出ていない状態になると、体の中に毒素がどんどん溜まってしまいます。その結果、発作や不整脈、さらには命に関わる状態に陥ることがあります。
こうした状況では、点滴や薬によるサポート治療が必要になりますが、残念ながら一度「尿が出なくなる状態」になってしまうと、回復が難しいケースも多いとされています。
最終的に尿が作れなくなった場合には、透析治療が選択肢となることがあります。透析には血液透析と腹膜透析がありますが、血液透析は対応できる施設が限られているのが現状です。腹膜透析は設備がなくても実施できる場合がありますが、あくまでも「腎臓が回復するまでのつなぎの治療」として行われます。
まとめ

ユリは、猫にとってほんの少し口にしただけでも命に関わる危険なお花です。
花びらや葉はもちろん、花粉や花瓶の水をなめただけでも中毒を起こすことがあります。
ユリ中毒は、いかに早く動物病院で処置や点滴治療を始められるかが、その後の経過に大きく影響します。飼い主さんが「少し食べただけだから大丈夫」と思ってしまうと、治療が遅れて命に関わることもあります。
大切なのは、ユリを猫の生活空間に近づけないことです。プレゼントや飾り花でユリが家に入る機会もあるので、猫と暮らしていることを周りに伝えておくのも安心につながります。
「ユリは猫にとって絶対に危険」ということを知っておくこと、そして日頃から防ぐ意識を持つことが、何よりも猫の命を守ることにつながります。
ぜひ今回紹介したポイントを万が一の際の対応に役立てていただければ幸いです!


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