はじめに

みなさま、チョコレートはお好きですか?
健康効果が注目される高カカオチョコレートなど、私たち人にとってはとても身近で魅力的なお菓子ですよね。
ところが、このチョコレートは犬や猫にとって命に関わる危険な食べ物だということをご存じでしょうか。
「チョコレートのどの成分がダメなの?」「どんな症状を引き起こすの?」「どのくらい食べると危険なの?」
実際のところ、意外と知られていない部分も多いのです。
実際に「チョコレートを食べてしまった!」というご相談は少なくありません。
特にバレンタインやクリスマスなどのイベントシーズンには、誤食の問い合わせがぐっと増える傾向があります。
犬の誤食の中でも上位に入るチョコレートは、量によっては重症化し、最悪の場合は死に至る中毒を引き起こす恐ろしい食べ物です。
この機会に、もう一度チョコレートの危険性を確認し、愛犬・愛猫を守るための知識を持っていただけたらと思います!
チョコレートに含まれる危険な成分とは?

チョコレートの原材料であるカカオの種子には、テオブロミンやカフェインといったメチルキサンチン類が含まれています。これらの成分こそが、犬や猫に中毒症状を引き起こす原因物質です。
特にチョコレートには、カフェインよりも3〜10倍多くのテオブロミンが含まれており、このテオブロミンが中毒の主な原因とされています。
チョコレート製品の成分表示には「カカオマス」や「カカオニブ」といった表記がありますが、これらはすべてメチルキサンチン類を含むものです。同じ原料から作られるココアにも注意が必要です。
また、チョコレートやココア以外にも、コーヒー、紅茶、緑茶、烏龍茶、コーラなどにはカフェインが含まれており、犬や猫にとっては同じように危険となります。
犬や猫に現れる中毒症状とは?

カフェインを摂取した場合、2時間以内に症状が出ることが多いとされていますが、チョコレートの場合は発症までに少し時間がかかるのが特徴です。
最初の症状は摂取から2〜4時間後に現れ、以下のようなものが挙げられます。
初期症状
- 落ち着きのなさ
- 嘔吐・下痢
- 水をよく飲む(多飲)
進行すると出る症状
- 異常な興奮
- 脱力
- 頻脈
- 震え
重症化で見られる症状
- 高血圧
- 不整脈
- チアノーゼ(粘膜が紫色になる)
- 痙攣
さらに、多くのチョコレート製品は脂肪分も多く含むため、メチルキサンチンの症状が軽度でも、消化器症状や膵炎を引き起こすリスクがあります。
犬や猫にとって危険な摂取量とは?
犬にとって、チョコレートに含まれるテオブロミンやカフェインは、体重1kgあたり100〜200mgの量を食べると命に関わる危険があるとされています。
ただし、そこまで多くなくても中毒症状は現れます。
- 体重1kgあたり20mg程度 … 嘔吐や落ち着きのなさなどの軽い症状
- 体重1kgあたり40〜50mg程度 … 不整脈など重い症状
- 体重1kgあたり60mg以上 … 痙攣など命に関わる症状
市販チョコレートの含有量
国民生活センターの調査では、主要メーカーのチョコレートに含まれるテオブロミン・カフェイン量が測定されています。例えば以下のような結果です。
| No. | 商品名 | メーカー | テオブロミン (mg/100g) | カフェイン (mg/100g) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | チョコレート効果 99% | 明治製菓 | 1100 | 120 |
| 2 | チョコレート効果 86% | 明治製菓 | 990 | 93 |
| 3 | カレ・ド・ショコラ [カカオ70] | 森永製菓 | 610 | 110 |
| 4 | カカオの恵み 88% | ロッテ | 800 | 84 |
| 5 | カカオの恵み 77% | ロッテ | 710 | 68 |
| 6 | 明治ミルクチョコレート | 明治製菓 | 250 | 25 |
| 7 | 森永ミルクチョコレート | 森永製菓 | 270 | 36 |
| 8 | ガーナミルクチョコレート | ロッテ | 220 | 28 |
(出典:独立行政法人国民生活センター「高カカオをうたったチョコレート(結果報告)」2009年)
上記のように日本の大手メーカーのミルクチョコレートには、100gあたりおよそ
- テオブロミン:220〜270mg
- カフェイン:25〜36mg
この場合、体重5kgの犬や猫なら約45g食べただけで症状が出る可能性があります。
高カカオチョコレートはさらに要注意!
日本の高カカオチョコレートでは、100gあたりおよそ
- テオブロミン:610〜1,100mg
- カフェイン:68〜120mg
この場合、体重5kgの犬では
- 約9gで軽度の症状
- 約18gで重度の症状
に相当します。
ほんのひとかけらでも危険となるため、絶対に与えないよう注意が必要です。
チョコレートを食べてしまった時の初期対応と注意点

来院前(電話での対応)
チョコレートを食べてしまった場合は、まず動物病院へ連絡をしてください。
電話の際には、次のような情報をできるだけ詳しく伝えると、受診後の対応がスムーズになります。
- 食べてしまった商品の名前(メーカーや種類)
- 食べた量と、食べた時間
- 包装や外装を一緒に飲み込んでいないか
また、実際に食べたチョコレートの包装を持参すると、含まれている成分を確認しやすく、診断や治療に役立ちます。
来院後の対応
催吐処置(吐かせる処置)
動物病院に到着したら、状況に応じて催吐処置(吐かせる処置)が検討されます。
これは、体内に残っているチョコレートをできるだけ早く排出するための処置です。
一般的には、アポモルヒネという薬を使って吐かせる方法が行われます。アポモルヒネは比較的安全性が高く、現在多くの動物病院で第一選択として用いられています。
ただし、以下の場合には催吐処置は適応できません。
- すでに何度も嘔吐している場合
- 意識が低下している場合
- 誤嚥性肺炎の既往がある場合
胃洗浄
催吐処置(吐かせる処置)が難しいと判断された場合には、全身麻酔下での胃洗浄が検討されることもあります。
ただし、胃洗浄は中毒物質をできるだけ早く取り除くことが目的ですが、摂取から15分後に行ったとしても回収できる量は約3割程度にとどまると報告されています。そのため、第一選択の方法とはされていません。
活性炭
チョコレートに含まれるテオブロミンやカフェインは腸で吸収されるため、治療の一環として活性炭を投与して中毒物質を吸着させる方法が有効とされています。
活性炭は一度だけではなく、体内に残っている成分をより効果的に取り除くために反復投与が行われることもあります。その際は、体内から中毒物質を速やかに排出できるように静脈点滴を併用してサポートします。
また、カフェインは腎臓を通って尿に排泄されるだけでなく、膀胱から再び吸収されてしまうことがあります。
そのため、状況によっては尿道カテーテルを使用して尿を排出させる処置が行われることもあります。これにより、体内に有害物質が再び吸収されるのを防ぐことができます。
チョコレート中毒の研究報告
犬のチョコレート中毒については、学術的な調査報告もあります。
2021年に発表された研究では、156頭の犬のチョコレート誤食事例を振り返り、次のように報告されています。
「44頭には中毒症状が認められ、特にダークやビター系チョコレートを食べた犬に多く見られました。症状は『落ち着きのなさ(33頭)』『震え(22頭)』『嘔吐(21頭)』が代表的で、頻脈・過呼吸・高体温・脱水なども併発していました。」
(Henderson et al., Journal of Small Animal Practice, 2021)
このように、チョコレートの種類や摂取量によって症状の現れ方が異なり、特にカカオ含有量の多いチョコレートは危険性が高いことが示されています。
まとめ

チョコレートは、犬や猫にとって命に関わる危険な中毒物質です。
少量であっても症状が出ることがあり、特に小型犬や子犬ではごくわずかな量でも重篤な状態に陥る可能性があります。
中毒症状は摂取から2〜4時間ほどで現れることが多く、早期に動物病院で処置を行えるかどうかが予後を大きく左右します。
「少しだから大丈夫だろう」と自己判断せず、誤食に気づいたらすぐに動物病院へ連絡し、指示を仰ぐことが大切です。
そして、最も重要なのは 予防 です。
犬や猫の届く場所にチョコレートやココア、カカオを含むお菓子や飲み物を置かないよう、日常的に徹底しましょう!
ぜひ今回紹介したポイントを万が一の際の対応に役立てていただければ幸いです!


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